ブラックホール VS. 光の速度
ブラックホールはアメリカの物理学者のジョン・ホイーラー (John Archibald Wheeler) が 1967 年に名付けたとされています。その全容は未だ解明されていませんが、宇宙には多数存在すると言われています。”言われています”と表現させていただいたのは、だれもその姿を見たことがないからです。なぜその姿が見えないのか、それを考えてみましょう。我々が夜空に浮かぶ星々を見ることができるのは、宇宙空間にある星からの光がヒトの目に飛び込んでくるからです。地球からロケットが脱出していくように、星の表面から出た光が、その星の重力を振り切り宇宙空間へと脱出し、地球まで遠路はるばるお越しになっているのです。
ではブラックホールの場合はどうでしょう。ブラックホールはとてつもない重力を持ち、その近くにある物質全てを飲み込みます。ブラックホールの表面から光が出発したとしましょう。さて、光はブラックホールの重力を振り切って脱出できるでしょうか… 答えは NO です。光の速度を持ってしてもブラックホールの重力を振り切ることはできず、ブラックホールへと引き返していくことになります。他の星々と違い、光が抜け出して地球にやってくることは不可能ですから、ヒトの目にその姿が写ることはありません。

下図: ブラックホール付近から出た光はヒトの目には到達しない
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ブラックホールの半径を計算してみよう
「そんな簡単に計算できるの?」と思う方もいるでしょう。しかし、高校で習う物理・力学の第二宇宙速度を求めるための公式(エネルギー保存則)を使えば、ブラックホールの半径を算出できます。これまでの説明から、光の速度=ブラックホールから脱出するための速度となるような半径を計算してやればよいのです。質量\(m\)の質点が光速度\(c\)で、半径\(r_g\)で質量\(M\)のブラックホール表面から真上に向かって飛び立ったとしましょう。公式から
\begin{eqnarray}
\frac{1}{2} m c^2
– G \frac{m M}{r_g}
=0
\label{escapevel}
\end{eqnarray}
ここで\(G\)は万有引力定数です。この式から\(r_g=2GM/c^2\)と計算できますね。なんとブラックホールを語る上で欠かすことのできない相対性理論を無視して、こんな大雑把な計算からブラックホールの半径が導出できてしまいました。なんの偶然か、相対性理論による厳密な計算を行っても、同じ結果を得ることができます。この\(r_g\)を、アインシュタインの一般相対性理論から導出した研究者の名前から、シュバルツシルト半径(Schwarzschild radius)と呼びます。非常に残念なことに、カール・シュバルツシルト(Karl Schwarzschild)は1915年にこれを発見したその4ヶ月後に病気で死去しています。
ちなみに、我々の身近に存在する太陽がブラックホールになった場合、その半径はどれくらいでしょうか。\(M=2.0\times10^{33}[g], G=6.7\times10^{-8}[\mathrm{cm^3/s^2g}]\), \(c=3.0\times10^{10} \)[cm/s]を代入してやりましょう。その大きさなんと\(r_g=3.0\times 10^5 \)[cm]= 3[km]です。大体、東京駅から上野駅の距離ですね。我々が住む地球を引っ張り続けている、その太陽をここまで凝縮してようやくブラックホールを作り出すことができるのです。
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